胃酸がタンパク質の消化を助けてくれることはすでにお話ししました。3大栄養素の残りの二つ、炭水化物と脂質の消化も、胃酸が大きくかかわっています。
私たちが食べたものの大半は、すい臓から分泌される消化酵素によって消化されています。すい臓以外の場所で作られる消化酵素はいくつかあり、そちらももちろん重要です。ただ、すい臓系消化酵素の圧倒的な影響力と比べてしまうと、ごく限られた部分を担当している小さな存在に見えてしまいます。
胃の中での消化が完了した食べものは、お粥のようなドロドロ状態になります。次に進む場所は小腸です。
小腸は全体で約6mにもなる長いチューブで、十二指腸、空腸、回腸の3つのパートに分かれています。
十二指腸には、すい臓で分泌された消化酵素が流れ込んできます。胆のうからは、脂質の消化を助ける胆汁も合流します。こうした消化成分が、胃でドロドロのお粥状になった食べものと混ぜ合わされる場所が十二指腸なのです。
十二指腸では、もう一つ重要なことが起こります。pHの調整です。
消化酵素は、分子のつなぎ目をカットするハサミのように働きます。その働きはpHに影響されやすく、自分好みのpHだとよく手入れされた選定はさみのようにスパスパ切りまくってくれるのですが、苦手なpHだと切れ味が悪いハサミになってしまいます。
胃の中で働くペプシンにとって、最適のpHは2前後でした。すい臓系の消化酵素はpH8くらいの環境で、もっとも活発に働きます。
十二指腸に入ってきたドロドロお粥は胃液まみれになっていますから、強い酸性の状態です。これをpH8くらいまで高めないとすい臓系の消化酵素はうまく働けません。
そこで、十二指腸のもう一つのとっても大切な仕事とは、pHを2前後から8前後まで一気に転換することなのです。そのために重要な役割を果たしているのが、実は胃酸です。
これについては、次回ご説明しましょう。
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